一点を見つめていたが、だしぬけに自分の名をよばれて、飯島とはちがった意味で、あわてたらしかった。しかし、かれはすぐにはこたえなかった。こたえるかわりに、何度も小首を左右にかしげ直し、するどい眼で畳をにらみまわした。それから、朝倉先生のほうをまともに見て、そのしゃがれた声をとぎらしがちにこたえた。
「ぼく……もっと……考えてみます。」
「もっと考える? ふむ。腑《ふ》に落ちなければ、腑に落ちるまで考えるよりないだろう。自分で考えないで、人の言うことをうのみにする生活なんて、まるで意味がないからね。」
 朝倉先生は、そう言って微笑した。そして、それ以上口で説きふせることを断念した。いずれはこれからの生活体験が、徐々《じょじょ》にかれらを納得させるだろう、というのが先生のいつもの信念だったのである。
「田川君のほかにも、まだよく納得がいかないでいる人がたくさんあるだろうと思うが、そうした根本問題については、これから何度でもむしかえして話しあう機会があるだろう。そこで、それはいちおう未解決のままにして、ともかくも具体的な問題にはいることにしょう。じゃあ、時間もおそくなったし、私のほうから案を出
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