うだん》まじりの調子でそれに言い足した。
「これまでの塾生の日記や感想文を見ますと、そのことがふしぎなぐらいはっきりあらわれていましてね。それで、つい、多少の無理をしても、入塾式の日には小鯛を用意することにしているんです。」
「しかし、お祝いのお気持ちなら、赤飯だけでたくさんでしょう。そうご無理をなさらんでも。」
中佐も冗談めかした調子で言ったが、その頬《ほお》には、かすかに冷笑らしいものがただよっていた。
「おっしゃるとおりです。」
と、朝倉先生はしごくまじめにうけた。しかしすぐまた冗談まじりに、
「ただ塾生たちには、おかしら付きの鯛というものが妙《みょう》に印象に残るらしいので、ついそれに私たちが誘惑《ゆうわく》されてしまうのです。それも教育の一手段だという口実もありましてね。はっはっはっ。」
「甘いですな。」
と、荒田老が横からにがりきって言った。
まわりの来賓たちが、それで一せいに笑い声をたてたが、それがその場の空気をまぎらすための作り笑いだったことは明らかだった。
「塾長はそうした甘いところもありますが、根は辛《から》い人間ですよ。実は辛すぎるほど辛いんです。甘いとこ
前へ
次へ
全436ページ中113ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング