みこころ》」という言葉を口にしたが、その時だけは直立不動の姿勢になり、声の調子もいくぶん落ちつくのだった。しかし、佩剣の伴奏がもっとも激《はげ》しくなるのは、いつもその直後だったのである。
かれの意図《いと》が、塾の精神を徹底的《てっていてき》にたたきつけるにあったことは、もうむろん疑う余地がなかった。かれは、しかし、真正面から「友愛塾の精神がまちがっている」とは、さすがに言わなかった。かれはたくみに、――おそらく、かれ自身のつもりでは、きわめてたくみに、――一般論《いっぱんろん》をやった。そして、なおいっそうたくみに、――もっとも、この場合は、かれ自身としては、たくらんだつもりではなく、かれの信念の自然の発露《はつろ》であったかもしれないが、――「国体」とか、「陛下」とか、「大御心」とかいう言葉で、自分の論旨《ろんし》を権威《けんい》づけることに努力した。
「日本の国体をまもるためには、国民は、四六時中非常時局下にある心構《こころがま》えでいなければならない。恒久的任務と時局的任務とを差別して考える余裕《よゆう》など、少くともわれわれ軍人には全く想像もつかないことである。」
「大命
前へ
次へ
全436ページ中105ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング