も声をたてて笑ったわけではなかった。笑うにはあまりにまじめずぎる光景だったし、しかも、その当事者が二人とも、場内での最も重要な人物らしく見えていただけに、微笑《びしょう》をもらすことさえ、さしひかえなければならなかったのである。しかしまた同じ理由で、おかしみはかえって十分であった。したがって、それをこらえるしぐさで、場内の空気がゆらめいたのに無理はなかったのである。とりわけ次郎にとっては、それがかれの最も緊張《きんちょう》していた瞬間《しゅんかん》のできごとであったために、そのおかしみが倍加されていた。かれは唇《くちびる》をかみ、両手をにぎりしめて、こみあげて来る笑いをおしかくしながら、中佐の表情を見まもった。
 中佐は、その口もとをわずかにゆがめて苦笑した。それは場内で見られたただ一つの笑いだった。その笑いのあと、かれはほかの来賓たちのほうは見向きもしないで、靴《くつ》と拍車《はくしゃ》と佩剣《はいけん》との、このうえもない非音楽的な音を床板《ゆかいた》にたてながら、壇《だん》にのぼった。
 次郎の気持ちの中には、もうその時には、どんなかすかな笑いも残されてはいなかった。かれは、中佐
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