触《せっしょく》に接触を重ねて行くうちに、自然に各人の内部からいいものが芽を出し、それがみごとに共同生活に具体化され、組織化される、そういったところをねらうのが、今度の塾堂生活なんだ。」
 夫人も次郎もだまってうなずいた。
「まあ、しかし、こういうことはお互いにゆっくり話しあうことにして、さっそくかたづけなければならないのは、本田君の問題だ。中学校も五年になってからの転校は、どうせ公立では見込《みこ》みがないので、私立のほうの知人に二三|頼《たの》んではある。しかし、夏休みのせいか、まだはっきりした返事がきけないでいる。それがきまるまでは、君も落ちつかないだろうと思うが、どうだい、私が紹介状《しょうかいじょう》を書くから、君直接会ってみないか。」
「はあ――」
 次郎は気がすすまないというよりは、むしろ意外だという眼をして先生の顔を見た。
「私立ではいやなのか。」
「そんなことはありません。」
「じゃあ、会ってみたらいいだろう。私立でも、まじめな学校では、やはりいちおう本人に会ってみてからでないと入れてくれないからね。」
「先生!」
 と、次郎は急にからだを乗り出し、息をはずませながら
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