ど、とうとう言っちゃったよ。言ったっていいんだろう。」
「そりゃあいいさ。どうせ、言わなきゃあならないんだから。」
「恭ちゃんも、言うんかい。」
「ああ、言うとも。……だけど変だなあ。まるっきり知らない人に、母さんなんて。僕、ほんとうは、そんな人来ない方がいいと思うよ。」
「そうかなあ――」
 次郎は何か考えるらしかったが、
「でも、大巻のお祖父さん、僕、大好きだよ。」
「大巻のお祖父さんって誰だい。」
「母さんになる人の父さんさ。剣道を教えてくれるよ、うちに行くと。」
「ふうむ。……次郎ちゃん行ったことあるんかい。」
「ああ、もう何度も行ったよ。いつも土曜から行って泊るんさ。」
「そんなにいいお祖父さんかい。どんな顔の人? 正木のお祖父さんみたい?」
「ううん、天狗の面そっくりだい。正木のお祖父さんも背が高いんだけど、もっと高いよ。いつも肩をいからしてらあ。」
「ふうむ。……それでやさしいんかい。」
「やさしいかどうか知らないけれど、面白いよ。僕、あのお祖父さんだと、どなられたって怖くなんかないや。」
「どなられたことある?」
「うん、あるよ。僕、あのうちの泉水の鯉をつりあげちゃった
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