のだった。恭一はこれまで、自分の家に寝るかぎり、一晩だってお祖母さんと部屋をべつにしたことがなく、いつも俊三と三人で座敷に枕をならべる習慣だったが、今度次郎が帰って来ると、さっそく二人で相談して、勉強の都合を理由に、そんなことにきめたのだった。
むろん、それがお祖母さんに気に入るはずがなかった。お祖母さんにしてみると恭一が自分の遊ぶ時間もないようにして、次郎の勉強の相手になっているのが、だいいち心外にたえなかった。もうそれだけで、恭一がひどく馬鹿をみているように思えたし、それに恭一の親切をいいことにして、あくまでも図にのっている次郎が、小面憎《こづらにく》くてならなかった。次郎のため少しでも恭一が犠牲になるなんて、全くあるまじきことだ、というのが、お祖母さんの永い間の信念みたようになっていたのである。だから、恭一が寝間を二階にかえる話をし出すと、お祖母さんは、とんでもないというような顔をして言った。
「馬鹿になるのもいい加減におしよ。お前、そんなふうだと、次郎にどこまでも甘く見られて、今にお尻まで拭《ふ》かされるよ。」
恭一は、そう言われて默りこんだ。生れつき繊細《せんさい》な彼の
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