ひょっとして腹が立つことがあったら、すぐ合宿の方に遊びにやって来い。」
「はい。でも、僕、もう腹を立てません。」
次郎は、先生が自分のことをなにもかも知っていてくれるような気がして、うれしかった。で、彼は誓うように、はっきり答えたのである。
「そうか、うむ。……だが、君は、合宿に加われんぐらいなことで、こないだから腹を立てていたようだね。」
次郎は頭をかいた。先生は微笑しながらその様子を見ていたが、また急に真面目な顔になって、
「君を合宿に加えるのは何んでもないことさ。だが、それでは本田次郎は卑怯者になってしまう。先生は、君を卑怯者にしたくなかったんだ。正木のお祖父さんだって、先生と同じ考えにちがいない。……偉い人にはね、本田、嫌いな人間もなければ、嫌いな場所もないんだ。それは勇気があるからさ。正しい勇気さえあれば、どんなことにだってぶっつかって行ける。本田のように好き嫌いがあるのは、ちと卑怯だぞ。」
先生はまた「卑怯だぞ」と言った。そして次郎には、この時ほど先生の「卑怯だぞ」がぴんと心にひびいたことはなかった。
(そうか、先生はそんなことを考えていたんか――)
次郎は、何度も
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