》として校庭を出た。
 校門を出て五六分も行くと、天満宮の前だった。
 権田原先生は、そこでみんなにひとりびとり拝殿の鈴を鳴らさした。それから、また列を作って歩き出したが、しばらくたつと、みんなはもうわいわいはしゃぎ出し、列もいつの間にか乱れて、道いっぱいにひろがり、先頭も後尾もないようになった。先生は、それでも何とも言わないで、例のとおり、ふとった頸の肉を詰襟のうえにたるまして、のそのそと歩いていた。が、だしぬけに立ちどまって、うしろをふり向いたかと思うと、
「こらあっ!」
 と、破鐘《われがね》のような声でどなりつけ、にぎり拳を高くふりあげた。
 みんなは、一瞬ぴたりと足をとめて、先生を見た。しかし、誰も心から恐怖を感じているようには見えなかった。先生のにぎり拳はいかにも豪壮だったが、その眼は微笑をふくんで、みんなの頭ごしにずっと遠くの方を見ているように思えたのである。
 先生は言った。
「勝手に列をくずしたり、おしゃべりをしたりするのは卑怯《ひきょう》だぞ。先生の眼はうしろにはついとらんからな。」
 そして、そう言ってしまうと、すぐまたくるりと向きをかえて、のそのそと歩き出した。
前へ 次へ
全305ページ中77ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング