のそばにいる方がいいって言ってるじゃないか。」
 と、いかにもお祖父さんが自分の肩をもって、そんなことを言いでもしたかのような口振りだった。
 竜一の方は、次郎の家に泊るのが、まんざらいやでもなさそうだったが、その場でははっきりした返事もせず、翌日になって、
「うちでいけないって言うよ。」
 と、気の毒そうにことわった。
 次郎は、そうなると、いよいよみんなにのけ者にでもされたような気になり、幼いころから本田の家で味わって来た不快な感情が、どこからともなく甦って来て、誰かが合宿の話でもし出すと、つい荒っぽいことを言ったり、皮肉な態度に出たりしたくなるのだった。――過去の深刻な運命というものは、それに似た新しい小さな運命をあざけるとばかりは限らない。それは、ちょうど骨の髄《ずい》をいためた古疵と同じように、ちょっとした寒さにもうずき出すことがあるものなのである。
 町に出て行くのは、次郎もみんなといっしょだった。その日、みんなは、いつもの朝礼の時間に学校にあつまり、全校児童のまえで、校長先生からの激励の辞をうけ、万歳の声におくられて、権田原先生を先頭に、寒い春風のなかを粛々《しゅくしゅく
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