平老はいかにも愉快そうに、からだをそらして笑った。
 俊亮は、しかし、笑わなかった。彼は、むしろ涙ぐんでいるようにさえ見えた。そして握っていた次郎の葉書に、じっと眼をおとしながら、いかにも感慨深そうに言った。
「次郎も、すると、まだ子供らしいところがいくらかはありますかね。」
「そりゃ、ありますとも。次郎君はやっぱり子供ですぞ。はっはっはっ。」
 運平老はもう一度大きく笑った。
 俊亮も微笑した。しかし彼は、鼻の奥に甘酸っぱいものを感じて、眼を伏せたままだった。
 運平老は、それから、襖の向こうにいた夫人を呼んで、湯豆腐と酒とを用意させた。まだ夕食には早い時刻だったし、俊亮はそれを辞退して帰ろうとしたが、運平老が、息子の徹太郎ももう帰るころだから、ぜひ会っておいてくれと言うので、腰をおちつけることにした。
 大巻夫人は、でっぷりと肥ったお婆さんだった。俊亮も、口をきくのは今日がはじめてだったが、無口なわりに人が好さそうで、いかにもお芳の母らしいにぶさがあった。運平老が陶《とう》然となって、
「お芳も、これでいよいよ落ちつくところがきまって、安心じゃな、婆さん。」と言うと、
「どうか末永
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