うでいましたが、急に、ああそうか、と言って恥ずかしそうに横を向きましたわい。」
「いや、なるほど。」と、俊亮は笑いながら、
「それで、風呂を出たあと、うまく母さんと言いましたか。」
「いいや、なかなか言いません。そりゃあ、そう急に言うわけがありませんわい。わしも、そんなに急に言わせるつもりもありませんでしてな。わしは、しかし、次郎君は剣道が好きじゃと見込みまして、それに望みをかけましたのじゃ。」
「はあ――」
「剣道が好きじゃとすると、またここに来て稽古がしてみたくなる。稽古がしてみたくなると、きっとかあっ[#「かあっ」に傍点]という懸声のことを思い出す。ついでに風呂小屋でのさん[#「さん」に傍点]を思い出す。さあ、そうなると、剣道をよすか、思いきって母さんと言うか、二つに一つじゃが、そこは次郎君が自分で考えることになりますわい。それも、次郎君が、母さんと呼ぶのを心から嫌っておれば話になりませんがな。」
「なるほど。」
俊亮は、今度はいくぶん、なるほどという顔をした。
「ところで、どうです。この葉書は? わしもこんなに早く計画が図に当るとは思いませんでしたわい。はつはっはっ。」
運
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