る。そのかあっ[#「かあっ」に傍点]という声がうまく出るたびに、わしが、わざとわしの面を打たせてやりますと、次郎君いよいよ調子づきましてな。」
「へえ――」
「次郎君は案外素直な子供ですぞ。」
俊亮は、眼をぱちくりさせた。
「素直じゃから、かあっ[#「かあっ」に傍点]と気合をかけさえすれば、面がとれると思いこんで、一所懸命に打込んでまいりますのじゃ。」
「なるほど。」
「それで、うんと汗をかきましてな、それからいっしょに風呂に入りましたのじゃ。すると、次郎君、風呂小屋の中でも、ときどき思い出しては両手をふりあげて打込みの真似をする。相変らずかあっ[#「かあっ」に傍点]、かあっ[#「かあっ」に傍点]と気合をかけましてな。」
「へえ――」
「そこをすかさず、わしが、小声でさん[#「さん」に傍点]とあとをつけましたのじゃ、そのたんびに。」
「なるほど。」
俊亮は、しかし、まだちっとも、なるほどだという顔をしていない。
「次郎君も、最初のうちはそれに気がつかないでいたようじゃが、何度もやっているうちに、けげんそうな眼をしてわしの顔を見ましてな。それから、しばらく突っ立って何か考えるようなふ
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