、次郎の葉書に、意味はわからないが、何となく愉快な調子が出ているのも、なるほど、という気がした。そうして、もう一度葉書に眼をとおした。
「そこで、次郎君のその葉書じゃが――」
 と、運平老も、やっと葉書のことを思い出したらしく、
「わしは、次郎君に、母さんと呼ぶのを、剣道で仕込んでみたいと思いつきましてな。」
「へえ? 剣道で?」
「そうです、剣道で。……こいつは、自分ながら妙案じゃと思いましたわい。」
 運平老は、そう言って、ひとりで愉快そうに笑った。俊亮は、まるで狐にでもつままれたような顔をしている。
「次郎君なかなか元気者でしてな、竹刀《しない》を握らせると、もう夢中になって打込んでまいりましたわい。ところで、これははじめのうち誰でもそうじゃが、うまく懸声《かけごえ》が出ない。出ても気合がかからない。そこをうまく利用しましてな、口を大きくあけてかあっ[#「かあっ」に傍点]、かあっ[#「かあっ」に傍点]と怒鳴ると気合がかかる、と言ってやりましたのじゃ。」
「へえ――?」
「すると、次郎君、言われたとおりに、かあっ[#「かあっ」に傍点]、かあっ[#「かあっ」に傍点]と叫んで打込んで来
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