言った。それでまたみんなが笑った。次郎の気持は、いつとはなしに少しずつほぐれて行くようだった。
寝る時刻になった。
次郎の寝床は、従兄弟たちとはべつに、座敷の次の間に、お芳のとならべて敷かれてあった。次郎はそれを知った時には、きまりが悪いような、淋しいような、変な気がしたが、何も言わずに、お芳よりさきに、ひとりで床についた。
しばらくは眼がさえて寝つかれなかった。それでも、お芳がいつ寝たのかは、ちっとも知らないで眠っていた。
翌朝は、いつもより一時間あまりも早く眼をさました。お芳は、もう起きあがって帯をしめているところだったが、次郎が眼をさましたのを知ると、例の大きなえくぼを見せながら言った。
「次郎ちゃんは、ゆうべ夢を見たんでしょう。」
「ううん。」
「でも、何度も寝言を言っていたのよ。」
次郎は何だか気がかりだった。しかし、どんな寝言だったかを問いかえしてみるだけの楽な気持には、まだなっていなかった。するとお芳が、またえくぼを見せながら、
「どんな寝言だったと思うの。」
「わかんないなあ。」
「教えてあげましょうか。」
「ええ。」
「それはね――」
とお芳は少し間をおい
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