ちゃん、あけて見せろよ。」
 源次が言った。次郎はすぐそれを源次の前につき出した。
 源次はさっさと包の紐を解いた。中は文房具の組合わせだった。赤、黄、青、金、緑などの色が眩《まば》ゆくみんなの顔を射《い》た。
「いいなあ。」
 誠吉が、心から羨ましそうに、まず言った。それから、下男や婢《おんな》たちまでがいっしょになって、「くずすのは惜しい」とか「そのまま飾物にしてもいい」とか、「これだけあったら何年もつかえるだろう」とか、口々にほめそやした。
 次郎も嬉しくないことはなかった。しかし、はしゃぐ気にはなれなかった。彼は、お延と何度も視線をぶっつけあっては、顔を伏せた。そして、お芳がほとんど自分の方に注意を向けていないのを、不思議にも思い、気安くも感じた。
 間もなく、座敷からお祖父さんとお祖母さんとが出て来た。お祖父さんはにこにこしながら、言った。
「次郎にはちと上等すぎたようじゃのう。」
 すると源次が、
「僕のにちょうどいいや。」
 それで、みんながどっと笑い出した。次郎も思わず笑った。
「次郎、誰も知らないところにしまっておかないと、みんなにとられてしまうよ。」
 お祖母さんが
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