は自分の机のうえに学校道具をおくと、立ったまま、何か思案した。恭一はまだ帰っていないらしく、帽子も雑嚢も見当らなかった。
 見るともなく恭一の本立を見ているうちに、次郎の眼はその中の一冊にひきつけられた。仮綴の袖珍本で、背文字に「葉隠抄」とあった。次郎はいきなりその本を引き出して、頁をめくった。
 最初の頁に、学校の講堂の額になっている「四誓願」が大きな活字で印刷してあった。つぎの頁には、朝倉先生の言った「武士道ということは死ぬことと見つけたり。」という文句が見つかった。それには朱線がひいてあった。彼はそれから、つぎつぎに、朱線のひいてあるところだけを見て行った。わかりにくい文句がかなり多かったが、また、彼の今の気持にぴったりする文句もちょいちょい見つかるので、吸いつけられるように、さきへさきへと眼を通して行った。
「……人に勝つ道は知らず、我に勝つ道を知りたり。……」
「……損さえすれば相手はなきものなり。……」
「……大慈悲より出ずる智勇が真のものなり。……」
「……よきことをするとは何事ぞというに、一口にいえば苦痛をこらうることなり。……」
「……わがために悪しくとも、人のために
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