というようは、もっと全生命的な、己を忘れた、そして、ただちに死に通ずるといったような気持が、彼を三つボタンに対して身構えさしていたのである。
三つボタンのせせら笑いを見ると、次郎はそれをはじきかえすように叫んだ。
「馬鹿! 何を笑うんだ。あの女の子は僕の乳母やの子じゃないか。僕は乳母やと今までそこで話していたんだ。それから二人を見おくっていたんだ。それが悪いんか! 自分で知りもしない女の子を眺めていた貴様と、どっちが悪いんだ!」
次郎の眼からは、もう涙があふれていた。彼は、しかし、罵りやめなかった。
「五年生は、制服のボタンがついてなくともいいんか! こんなところにかくれて、煙草を吸ってもいいんか! そんな五年生が僕たちの上級生なら、僕はもうこの学校にいなくてもいいんだ! なぐるならなぐってみい! 貴様のような奴に死んだって負けるものか! ち、ちく生! 卑怯者! ごろつき!」
次郎は、自分の声に自分で興奮して、何を言っているのか、もう、まるで夢中だった。
いよいよみじめだったのは、三つボタンである。そうまで言われては、彼も、いつまでもせせら笑いばかりはして居れなかった。されはと
前へ
次へ
全305ページ中254ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング