た。彼は、一瞬あっけにとられたような顔をして次郎を見た。
が、次の瞬間には、彼は世にもみじめな存在だった。彼は、次郎をなぶろうとして、あべこべに次郎になぶられていたことに気がついたのである。――何という辛辣《しんらつ》な皮肉だ。そして何という上級生としての恥辱だ。こうなった以上、もう言葉だけで何と次郎をおどかそうと、ただ自分をいよいよ滑稽なものにするばかりだ。かといって、上級生の権威を護るための最後の手段に出ることは、次郎の右手に光っている小刀の危険を冒すことなしには、今や全く不可能である――彼は、実際、自分以上の無法者を、だしぬけに、しかも自分の小さな獲物を発見して、進むことも退くことも出来なくなってしまったのである。
行詰った三つボタンは、変なせせら笑いをするよりほかなかった。それは、多くの人々が自分の不正と卑怯とをごまかすために、しばしば用いる手段である。だが、それがいくらかでも役に立つのは、相手がこちら以上に不正で卑怯な場合だけである。次郎に対しては、むろん何のききめもなかった。しかも、次郎を動かしていたのは、もはや彼の機智だけではなかった。彼は公憤に燃えていた。いや、公憤
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