れまでのような、わざとでも反抗してみたいという気持はなくなっていた。
(母さんやお祖母さんなんかを相手にするのが、ばかばかしい。)
彼は、いつとはなしに、そんな気がしていた。はっきり意識して、そうなろうと努めたわけでもなかったが、中学に入学して以来、日一日と、母や祖母の問題がその深刻さを減じて行き、このごろでは、よほどのことがないかぎり、たいして気にもかからなくなって来たのである。それは、たしかに、中学校というものの空気が、彼にいろいろの新しい問題をあたえ、彼の関心を、急に家庭以外の世界にまで拡げてくれた結果にちがいなかった。その意味では、中学校というところも、尊敬すべき先生がいるいないにかかわらず、人間を成長させる何かの魔術をもったところだ、といえるであろう。
乳母のお浜には、次郎は、それからも、たびたび手紙を出した。返事には、いつもきまって、一番になれとか、偉い人になれとかいうようなことが書いてあり、また、それとなく、今度の母との折合いがうまく行っているかどうかを、知りたいような文句がつらねてあった。次郎は、しかし、そのいずれにも、たいして心を動かさなかった。彼は、そうした手紙
前へ
次へ
全305ページ中243ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング