勝手につかえるんだと思うと、うれしいというよりは、何かそぐわない気持だった。だが、同時に彼の心にひっかかったのは、「なくなったら母さんにそう言えばいい」と言った父の言葉だった。父は何でもなくそう言ったらしく思えた。しかし、また、それを言うために、わざわざ蟇口を買ってくれたのではないか、とも疑えたのである。
家に帰ると、彼は一人で自分の机のまわりを整頓しはじめた。新しい教科書を本立にならべた気持は、決してわるいものではなかった。中には金文字のはいったものも二三冊あり、それがとりわけ彼の眼に新しく映った。恭一はもう今年は四年で、その本立には、分厚な字引類や参考書などが沢山ならんでいた。それに比べると自分の本立はいかにも物淋しかったが、それでも、新しい世界に足をふみ入れた、という気持を彼に起させるには十分だった。
彼は、いつの間にか蟇口のことを忘れていた。
ひととおり整頓を終ると、彼は、さっき買って来た絵はがきをとり出して、それに入学試験合格の通知を書きはじめた。先ず正木、大巻、権田原先生、竜一という順序に書いていった。源次も竜一も、幸いに、合格していたので、思うことが気楽に書けた。権
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