来ん。……いいか、本田、お前はもっと無邪気になるんだぞ。」
 権田原先生は、そう言って部屋を出ようとしたが、また立ちどまって、
「だが、無邪気になるといったって、いまさら赤ん坊になるわけにもいかん。そこがむずかしいんだ。赤ん坊は、自分のことだけ考えていれば、それが無邪気だし、お前くらいの年輩になると……」
 先生は、そう言いかけて思案した。それから部屋のなかを何度も行ったり来たりしていたが、
「いや、これは少しむずかしい。先生にも、どう言っていいかわからん。……とにかく君は考えんでもいいことを考え、考えなくちゃならんことを考えていないようだ。そこがはっきりすると君は無邪気になれるんだ。……が、今日はまあこれでいい。いずれまた二人で話そう。……今度の時間から教室に出るんだぞ。」
 権田原先生は、考え考え部屋を出た。次郎もそのあとについたが、彼は、なぜか、この時も運平老の蘭の絵を思い出していた。
 喧嘩の一件は、次郎に関する限り、それで終りだった。学校でも、正木でも、そのことについて、次郎にその後訓戒したりすることなど、まるでなかった。そして、権田原先生が、「いずれまた二人で話そう」と言っ
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