郎は、しかし、笑えなかった。彼は権田原先生の眼を気味わるくさえ感じたのである。
「ねえ本田、――」
 と、権田原先生は次郎の肩に手をかけて、
「先生には、君があばれてみたくなる気持も少しはわかっている。だから、ゆうべのことで君を叱ろうとは思わん。だが、もし君がそれで正しいことをしたつもりでいたら、それは大間違いだ。正しいことというものはね、まだ、自分のことしか考えられない人間に出来ることではないんだ。」
 次郎には、先生の言っていることが、はっきりのみこめなかった。しかし、「自分のことしか考えられない人間」と言われたのが、妙に彼の心にこびりついた。
 そのあと、権田原先生はまた顎鬚をむしりはじめた。そして天井ばかり見て、ほとんど口をきかなかった。
 そのうちに鐘が鳴った。すると、先生はのそのそと立ち上りながら、
「あとのことは先生がいいようにしておくから心配するな。お前は、いま先生が言ったことをよく考えてみるだけでいいんだ。……とにかく、自分のやったことに得意になってはいかん。尤もらしい理窟をつけて安心しているのが一番いけないんだ。それでは、心から笑うことも出来なけりゃあ、怒ることも出
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