》さるんで、午《ひる》からだと小鮒と鰻が手にはいるんだがね。」
「あっ、そうそう、今日でしたね、大堀の干さるのは。じゃあ、僕行ってみましょう。もういくらか受籠《うけかご》にはいってるかも知れません。」
 徹太郎は、せき立てるように恭一と次郎とをうながして、いっしょに大堀に行った。
 大堀というのは、村で一番大きな灌漑《かんがい》用の溜池だった。この辺では、春になると溜池の水を順ぐりに川に落し、底にたまった泥を汲みあげて畑の肥料にするのだったが、今日はその大堀を干す番になっていたのである。
 三人が着いた時には、堀の上にしつらえられた二つの足場に、百姓たちが二人ずつ立って、八本の綱でつるしたいびつな桶を巧みにあやつりながら、もう泥を汲みあげているところだった。堀の底にも泥まみれになった人が五六人居り、小桶で泥水を足場の方にかきよせていたが、おりおり鰻や鯰を揃えては岸に抛《ほお》りあげていた。汲みあげられた畑の泥の中には、小鮒がぴちぴち動き、隅の方の泥のよどんだところには、もう田螺《たにし》がそろそろと這い出していた。
「受籠《うけかご》の方はどうだったい。ちっとは這入ったかね。」
 徹太
前へ 次へ
全305ページ中160ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング