はゆうべは宿直じゃったな。なるほど、きょうお前たちをつれて来る約束じゃったわい。はっはっはっ。」
 運平老は、絵の世界から、やっとほんとうに自分にかえったらしかった。
 そこへ、大巻のお祖母さんが二人を呼びに来たので、運平老もいっしょに茶の間に出て行き、みんなで餅菓子を頬張った。
 餅菓子を頬張りながら、徹太郎はまた登山の話をはじめた。そして崖に生えている植物の採集の話をし出すと、運平老は得たりとその話をさっきの蘭の絵にもって行き、徹太郎にさっそくそれを見て来るように言った。徹太郎は、
「またお父さんの独りよがりではありませんかね。」
 と、笑いながら座敷の方に立って行ったが、間もなく帰って来て、
「やっぱりあれはただの蘭ですよ。高さの感じがちっとも出ていません。あれじゃあ、庭石の横っ腹に生えた蘭だと見られても、仕方がありませんね。」
 運平老は眼をくるくるさして、
「なに、庭石の横っ腹じゃと。お前のような平凡な学校の先生には、墨絵の心は到底わからん。お前よりは恭一君の方がよっぽどわかりがよさそうじゃ。」
 恭一の顔がかすかに赧らんだ。
「ふ、ふ、ふ。」
 と、徹太郎は悠然とあぐらをか
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