入っているだけじゃ。白い雲が一ひらぐらいは浮いているかも知れんがの。どうじゃ、これもいい景色じゃろう。」
 次郎には何のことやらさっぱりわからなかった。しかし、恭一が案外真剣な眼付をして絵に見入っているので、自分も仕方なしに、画面の天地の何も描いてない部分を、きょろきょろと見上げ見おろしていた。
 運平老は今度は絵と子供たちとを等分に見比べながら、
「天地をつなぐ断崖に根をおろして、天地を支配している蘭の心には何の迷いもないのじゃ。たった一株で淋しいとも思わんし、雨風にたたかれても苦にならん。花が咲く時には花を咲かせ、枯れる時が来たら括れるまでじゃ。わしも今日はひさびさで気持のよい絵を描いた。もうこれでおしまいじゃ。」
 そしていかにも愉快そうに、ひとりでうなずきながら、絵筆を筆洗にひたしていたが、
「二人とも、ようおとなしく坐っていたのう。いったい、いつ来たんじゃ。」
 二人は思わず顔見合わせて笑い出した。恭一は、しかし、すぐ真顔になって、
「お祖父さんが今の絵を描きかけた時です。」
「ああ、そうだったか。で、二人で来たかの。」
「叔父さんといっしょです。」
「おう、そうそう。徹太郎
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