るまでは、何枚でも描くのじゃ。」
 運平老はそう言って、いま描きあげたばかりの、まだ墨の乾《かわ》かない絵を、以前のと並べて壁にとめた。その前に坐って、しばらく一心に見つめていたが、
「うむ、うむ。」
 と、一人で何度もうなずき、それから、また二人の方に向き直って、
「どうじゃ、これなら文句なかろう。」
 文句があるも、ないも、二人はどの絵を見ても同じ感じがするだけであった。で、返事をしないで、くすぐったそうに眼を見あわせた。すると、運平老は言った。
「蘭が一株、千仭《せんじん》の断崖に根をおろして匂《にお》っているのじゃ。よいかな、たった一株じゃぞ。その一株の下は深い谷じゃ。断崖をつとうて、すっと見おろすと、白い泡《あわ》をふいて水が流れている。流れにそうて森もあれば、畑もある。どこかに小さな人影も見えていよう。その上を鳶が輪に舞っているかも知れん。いい景色じゃ……。」
 運平老は、そこでちょっと言葉を切った。そしてまた何度もうなずいてから、
「今度は上を見るんじゃ。断崖は何十丈と上の方にものびている。じゃが、もうそこには一本の木も草もない。丸裸《まるはだか》の岩がただ真青な天に食い
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