れがほんとうの絵じゃ。」
「邪念って、何です。」
と、恭一がだしぬけにたずねた。その調子はいかにも真面目だった。
「うむ……」
と、運平老は、ちょっと説明に窮《きゅう》したらしく、その大きな眼玉をぱちくりさしていたが、
「邪はよこしま、念はおもいじゃ。よこしまなおもいと書いて邪念と読む。つまり迷いじゃな。人間はとかく自分に都合のよいことばかり考えて、怒ったり、悲しんだり、喜んだりする。それが迷いじゃ。心に迷いがあるとそれが絵筆に伝わって、自然に絵も下品になるのじゃ。」
次郎には、運平老の絵が上品だか下品だか、さっぱりわからなかった。学校の図画の手本のような美しい絵が描けないくせに威張っているな、という気が彼にはしていた。しかし、運平老の言った言葉は、べつの意味で妙に次郎の心にひっかかった。彼はきのうからのことを考え、「迷い」という言葉が何か自分に関係のあることのような気がしたのである。
「お祖父さんは、きょうは蘭ばかり描くんですか。」
恭一は運平老が今朝から描いたらしい何枚もの蘭の絵が、壁にピンでとめてあるのを見まわしながら、たずねた。
「うむ、今日は蘭じゃ。気持のいい蘭が出来
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