だった。しかし、運平老が絵を描いているのを実際に見るのは、二人ともはじめてだったので、そのまま坐って、絵筆の運びに見入っていた。
 画仙紙には、えたいの知れない線や点がべたべたとなすられていた。それが見ているうちに断崖のような形になった。そしてその中程から、長い髯《ひげ》みたようなものが、くねくねと幾筋も飛出して、それがたちまち蘭になった。
 蘭を描き終ると、運平老は画筆をおろして、ちょっと腕組をした。それから、今度はべつの筆をとり上げて、絵の右上の余白に一行ほど漢字を書いた。それは恭一にも次郎にもまるで読めない字だった。最後に運平老は「鉄庵居士」と書いて筆を措《お》いたが、この四字だけは、恭一にも次郎にも見覚えがあり、それが運平老の雅号《がごう》だということも以前からわかっていた。
「どうじゃ、学校の図画とはだいぶ違うじゃろう。」
 運平老は、やっと眼鏡をはずして、二人の方に向きなおった。
「学校の図画、あれは形だけのものじゃ。形だけでは、ほんとうの絵にはならん。ほんとうの絵は心で描くものじゃ。心の邪念《じゃねん》をはらって絵筆を握る。すると絵筆の先から自然に自分の気持が流れ出る。そ
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