一度、読みかえしていた手紙を膝の上に置いて、俊亮を見た。俊亮が出かける前にもっとよく話し合っておきたい、というのがその肚《はら》らしかった。俊亮は、しかし、
「日も短いし、早く行って、早く帰った方がいいんです。」
と、すぐ立ち上って次の間の箪笥《たんす》の抽斗《ひきだし》から自分で羽織を出しかけた。
次郎は俊三と肩を組んで元気よく二階からおりて来た。そのあとから恭一もついて来た。
「お祖母さん、次郎ちゃんはもう帰るんだってさあ、まだ休みが二日もあるのに。」
俊三が訴えるように言った。
お祖母さんは、しかし、それには答えないで、次郎のにこにこしている顔を、憎らしそうに見ながら、
「お前は正木へ行くのが、そんなに嬉しいのかえ。」
次郎の笑顔は、すぐ消えた。彼は默って次の間から出て来た父の顔を見上げた。
「何か、お土産になるものはありませんかね。」
俊亮は、その場の様子に気がついていないかのように、お祖母さんに言った。
「何もありませんよ。」
と、お祖母さんは、極めてそっけない。
「じゃあ、次郎、店に行って、壜詰《びんずめ》を三本ほど結《ゆわ》えてもらっておいで。」
次郎はす
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