人、落第したことないんですか。」
「む、落第したこともあるが、大ていは及第した。」
みんながまた笑った。今度は竜一が、
「そんな人、先生、ほんとうにいるんですか。」
「ほんとうだとも、その人は非常な勉強家でね、よく本を読んで夜更かしをしていたんだ。しかし、それは試験のためではなかった。試験なんかどうでもいいっていう気でいたんだから、眠くなりゃあ、試験の最中でも眠ったのさ。」
「でも、その人、落第したのは、居ねむりをしたためじゃありません?」
他の一人の児童がたずねた。
「うむ、それはそうだ。その時はちょっと眠りすぎたんだね。まだ一問も書かないうちに眠ってしまって、鐘が鳴るまで眼がさめなかったんだ。しかし落第したのはその時いっぺんきりだぜ。」
「でも、試験に居ねむりするの、いいことなんですか、先生。」
更に他の児童がたずねた。
「大してよくもないだろう。だから、お前たちに真似《まね》をせいとは言っとらん。真似せいたって、どうせお前たちには真似も出来んだろうがね。しかし、本田はゆうべあまり寝ていないそうだから、ひょっとすると、真似が出来るかも知れん。……まあ、とにかく、そのぐらいの気
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