がいたいことない?」
 恭一が家を出るとすぐたずねた。
「ううん、何ともないよ。」
 次郎はわざと元気らしく答えたが、やはり耳鳴がして、頭のしんがいやに重かった。
 西福寺の門をくぐると、もうみんなは本堂の前に出そろって、わいわいさわいでいた。権田原先生も、間もなく庫裡《くり》の方から出て来たが、次郎を見ると、
「どうしたい? 眼が少し赤いようじゃないか。」
 それから、恭一を見、また次郎を見て、何度も二人を見くらべていたが、
「二人で夜ふかしをしたんだろう。駄目だなあ、そんなことをしちゃあ。」
 二人は默って顔をふせた。
「ゆうべ、何時に寝たんだい。」
「九時少しまえです。」
 次郎がすぐ顔をあげて答えた。
「九時まえ? そうか。じゃあ、みんなよりも早く寝たわけなんだね。……ふうむ。……」
 先生はけげんそうな顔をして、またしばらく二人の顔を見くらべていたが、間もなく外套《がいとう》のかくしから、黒い紐のついた大きなニッケルの時計を出して、時刻を見た。そして、
「みんな便所はすましたかね、大便は?……じゃ行くぞ。」
 みんなは元気よく門を出た。次郎もそのなかにまじったが、妙にしょんぼ
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