生卵《なまたまご》をねだったりしたが、きょうは誰もそんなことを思い出すものさえなかった。
お祖母さんは、それからも、じっと坐って二人の顔を見くらべていたが、
「恭一、お前、顔色がよくないようだよ。今日は次郎について行くの、よしたらどうだえ。」
そして、わざとのように、恭一の額に手をあてて、
「少し、熱があるんじゃないのかい。」
恭一は、その神経質な眼をぴかりとお祖母さんの方に向けた。が、すぐうつむいて、
「ううん、どうもないんです。」
と、首を強く横にふった。お祖母さんもそれっきり默ってしまった。
茶の間で新聞を見ていた俊亮が、ちょっと台所の方をのぞいて、何か言いそうにしたが、思いかえしたように眼を天井にそらして、ふっと大きな吐息をした。
「次郎ちゃん、便所すました? まだ時間はゆっくりだぜ。」
恭一は、食事をすまして立って行こうとする次郎に言った。
「ううん、大丈夫。」
二人が家を出たのは、八時を十二三分ほど過ぎたころだった。中学校までは二十分とはかからなかったが、途中、西福寺によって、合宿の連中といっしょに行く約束になっていたのである。西福寺までは七八分だった。
「頭
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