うととなった。が、ほとんど眠ったような気がしないうちに、
「次郎ちゃん、もう七時半だぜ。起きろよ。」
 と言う恭一の声を、耳元できいた。
 眼をあけると、もう洗面をすましたらしい恭一の顔が、すぐ自分の顔の上にあった。
 彼は、はね起きた。敷蒲団の上で重心をとりそこねて、ちょっと、よろけかかったが、そのまま泳ぐように壁ぎわに行って、そこにかけてあった学校服を着た。
「すぐ顔を洗っておいでよ、床は僕があげとくから。」
 次郎は、言われるままに急いで階下におりた。そして洗面をすまして、梯子段のところまで来ると、恭一がもう次郎の筆入と帽子とをもっておりて来ていた。筆入には、鉛筆、小刀、メートル尺、消しゴムなど、試験場に入用なものが全部入れてあったのである。
 二人は、すぐ台所に行って、ちゃぶ台のまえに坐った。飯を食べながら、昨夜来はじめてしみじみとおたがいの顔を見あったが、どちらも相手の顔色がいつものようでないのに気づき、ともすると眼をそらしたがるのだった。
 お祖母さんが仏間の方から出て来て、ちゃぶ台につきながら、じろりと次郎を見た。しかし何とも言わなかった。きのうの朝は、恭一が次郎のために
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