恭一が涙声で言った。
「うん。」
次郎はふとんの奥からかすかに答えた。答えると同時に、彼の眼からは、とめどもなく涙がこぼれ出した。彼が、やっとほんとうに眠ったのは、恐らく二時にも近いころであったろう。
八 蟻にさされた芋虫
翌日、次郎は、枕時計がまだ鳴らないうちに眼をさましてしまった。
彼は、かなり眠ったような気もし、またまるで眠らなかったような気もした。頭のなかには、水気のない海綿《かいめん》がいっぱいにつまっているようだったが、それでいて、どこかに砂のようにざくざくするものが感じられた。
部屋はまだ暗かった。枕時計を手さぐりして、それを自分の方に引きよせていると、恭一が声をかけた。
「もう眼がさめちゃったの? 僕、七時過ぎてから起きても大丈夫だと思って、めざましのベル、とめといたんだがなあ。……今日は九時からだろう。」
「うん。もっと寝ててもいいね。」
次郎は、そう言いながら、枕時計の表字板に眼を据えたが、暗くてはっきりしなかった。
(恭ちゃんは、まるで眠らなかったんじゃないかなあ。)
彼は、蒲団の襟に顔をうずめて、そんなことを考えていたが、つい、またうと
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