「次郎を預けたまま帰ってしまってはすまないが、幾人も泊りこんではなおさらすまない。」といったような意味のことを、くどくどと繰返した。で、結局お民が一緒について帰ることになった。
次郎は、傷が痛んで、よく眠れなかった。しかし、俊亮が自分と床をならべて寝ているうえに、お浜が夜どおし枕元に坐っていてくれたので、彼にとって、さほど不幸な晩であるとはいえなかった。
一三 窮鼠
年が明けた。愛されるものにも、愛されないものにも、時間だけは平等に流れてゆく。
菜種の花がちらほら咲きそめる頃には、次郎もいよいよ学校に通い出した。彼は学校に行くのが何よりの楽しみだった。で、毎朝恭一が、みんなに何かと世話を焼いてもらっている間に、さっさと一人で先に飛び出して行くのだった。
教室は男女一しょだった。次郎は、一番前列の窓ぎわに、偶然にも、お鶴と席をならべることになった。お鶴の頬には、相変らず「お玉杓子」がくっついていた。もっとも、彼はお鶴の右側にいたので、しょっちゅうそれが眼につくわけではなかった。
授業は初めのうち午前中ですんだ。授業がすむと、二人はすぐ校番室に行って、お浜がいつも用意
前へ
次へ
全332ページ中100ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング