しておいてくれる握飯と沢庵をたべた。握飯には、きまって胡麻塩《ごましお》がつけてあり、沢庵は麻縄のように硬かった。その前に坐ると、彼らの唾液は滾々《こんこん》と流れた。
次郎はお浜の家で物を食べることをお民に固く禁じられていた。このことは入学の当日、お浜にも厳《きび》しく、言い渡されたことであった。しかし、お浜も次郎も、そんなことはまるで忘れてしまっているかのようであった。
「何も飯代をいただこうというのではないし。」
これがお民から文句が出た時の用心に、お浜が考えておいた理窟であった。
次郎の帰りが遅くなるので、とかく迷惑するのは直吉だった。
次郎はすでに、本田と正木と学校との間を、一人で自由に往来することが出来たし、それに、時としては菜種畑の中に、小一時間も押しづよく隠れていたりするので、直吉は、迎えに来ても、捜しあぐんで、ひとりで帰ることが多かった。
しかし、珍しいことには、次郎は、まだ一度も校番室に泊りこんだことがなかった。それは、お浜が、お民に対する意地から、日暮近くなると、進んで次郎を帰すことにつとめたからだった。次郎は、そんな場合、どうしても家に帰るのが嫌だと、
前へ
次へ
全332ページ中101ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング