さそうだ。手首の方にちょっと大きな傷があるんだが。」
「でも、硝子《ガラス》のところでなくてよかったわ。」
「ともかく、誰か早くお医者を迎えて来なさい。」
 これは正木のお祖父さんの声であった。
 次郎は、手首と額とに、取りあえず白木綿を捲きつけられた。
「おや着物がぐしょぐしょになっていますが、どうなすったんでしょう。」
 お浜は彼を抱えて座敷の方に運びながら言った。
「そうかな、気がつかなかった。……大方倒れたはずみに発射したんだろう。」
 俊亮は、何でもなさそうに言って、笑いながら、次郎を見た。みんなも笑った。次郎はまだ泣いていた。
 ただお民だけが、きっとなって俊亮を睨んだ。
 それから次郎は、汚れた着物を辰男のと取りかえて貰って、しずかに蒲団に寝かされた。
 医者の見立てでは、手首の傷も大したことはなかった。ただ、障子の骨が突き刺さったのだから、傷あとは案外大きく残るかも知れないと言った。
 医者が帰ったのは、十二時ごろだった。
 俊亮は自分から泊っていくと言い出した。お浜はお民の顔色を窺っていたが、正木の老夫婦に勧《すす》められて、これも泊ることにした。本田のお祖母さんは、
前へ 次へ
全332ページ中99ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング