を火の玉のようにして、「自然の要求」と「良心の命令」との間に苦悶《くもん》した。――一分、二分。――だが、幸いにして、解決は早くついた。
(何だ、つまらない。直吉はもうとっくにかえったはずじゃないか。)
 そう気がつくと、彼は急にはね起きて、襖をがらりと開けた。
 ぬりつぶしたような闇だ。
 彼は両手を前に伸ばして、縁側だと思う方向に、そろそろと歩きだした。寒い。そして下腹部の要求はいよいよきびしい。
 と、何に躓《つまず》いたか、彼の体は急に前にのめって、闇を泳いだ。同時に彼は、物の破壊するすさまじい音を彼の耳許で聞いた。そして、茨《いばら》の中にでも突き倒されたような痛みを覚えて、思わず悲鳴をあげた。
 間もなく燈火が射《さ》して来た。大勢の人声と足音とが、その光の中に渦《うず》を巻いた。

「あっ、次郎だ!」
「まあ、坊ちゃん!」
「これはいけない、早く、早く!」
「無理しちゃいかん、そっと抱えるんだ!」
「まあ!」
「まあ!」
 次郎は障子の骨を二三本ぶち抜いて、頭と両手をその向側に突き出していたのである。
「眼玉を突いてはいないでしょうか。」
「大丈夫、顔の方は大したこともな
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