ね。」
「坊ちゃんのことでかい。」
「そうだよ。歳暮《くれ》の忙しいのに、二日も三日も子供をお邪魔さして置いたんでは、先方様に、義理が立たないとか言ってね。」
「へええ、いやに義理を気にするんだね。」
「なあに、次郎ちゃんがこちらで可愛がられていると思うと、妙に妬《や》けるんだよ。」
「まさか、お祖母さんが妬くってこともあるまいけれど……」
「いいや、本当に妬けるらしいよ。正木の家では子供を甘やかし過ぎていけないって、飯どきにさえなりゃ、そればかり言っているんだからね。」
「ご自分こそ、恭ちゃんをあんなに甘やかしているくせに。」
「全くさ。それにお祖母さんは、次郎ちゃんにこちらでいろいろ喋《しゃべ》られるのが、何より恐いらしいよ。あの子は全く嘘つきだから、何を言うか知れやしないって、一人でやきもきしているんだ。」
「まあ、呆れっちまうね。……ところで旦那様は一体どうなんだい。やっぱり坊ちゃんをいびるんじゃない?」
「そんなことあるもんか、旦那に限って。」
「でも、坊ちゃんを一人でお使いによこしたのは、旦那様だっていうじゃないの。」
「それはそうらしいね。でも、いびる気なんかまるっきりな
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