たらしく、
「そう急いで送って行くこともあるまいよ。よかったら、お浜もゆっくり泊っていったらどうだね。次郎と一緒に寝るのも久しぶりだろう。」
「でも、そんなことをいたしましたら、それこそ本田の奥様が、……」
「なあに、お民の方はこちらに任してお置きよ。今度来たら、お祖父さんからも、よく話して下さるはずだから。」
お浜はわくわくするほど嬉しかった。彼女は、次郎の耳許に口をよせて囁くように言った。
「乳母やも泊っていきましょうね。」
次郎は俯向いて、お椀の中に残った飯を、箸の先でいじるだけで、返事をしなかった。次郎がこんなにはにかんだ様子をするのは、全く珍しいことだった。
一二 押入
その夜は、次郎にとっても、お浜にとっても、まるで思いがけない一夜であった。そして翌朝になると、便所に行くにも、顔を洗うにも、二人は必ず一緒だった。お浜が土間の掃除をはじめると、次郎も何処からか箒《ほうき》を持って来て手伝った。
「まるで鶏の親子みたいだね。」とお祖母さんが笑った。
午過ぎに、本田から歳暮のものを持って直吉がやって来た。お浜は、彼に顔を見られないうちに、そっと裏口から抜けて帰
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