をさし伸べてもう一度彼を引きよせようとした。しかし次郎は、人に慣れない小猫のように、眼だけをお浜に据えて、じりじりとあとじさりした。
「どうなすったの、次郎ちゃん。学校がおいや?」
お浜はそう言って立ち上ると、無理に次郎をつかまえた。そして再び蓆の上に坐って、彼を自分の膝に腰かけさせた。
「ねえ、次郎ちゃん。」
と、次郎の耳に口をよせて、
「学校に行かないじゃ、偉くなれませんのよ。なあに、勉強だって何だって、恭ちゃんなんかに負けるもんですか。……恭ちゃんはね、そりゃ学校では泣虫なのよ。あんな泣虫、乳母やは大きらい。次郎ちゃんはきっと泣かないでしょうね。だって、学校では乳母やがついてて上げるんですもの。」
お浜の膝の上でぐずついた次郎の尻が、それでやっと落ちついた。
二人は、それからも永いこと炉の前を動かなかった。蒸桶から吹き出す湯気は、濃い蝋のにおいを溶《と》かしこんで、真赤にほてった二人の顔を、おりおり包んだ。
二人は身も心もあたたかだった。
ひる飯には、正木のお祖母さんが気をきかして、お浜を子供たちと一緒のちゃぶ台に坐らせた。お浜はみんなのお給仕をしながら、たえず次郎に
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