たっていうじゃないの? 随分ひどいわねえ。母さんのお言いつけ?」
「ううん。」
「では、お祖母さん?」
「ううん。」
「では、どなた。」
「父ちゃんだい。」
「お父さん? まあ。お父さんまで、そんなことを次郎ちゃんにお言いつけになるの? はっきり嫌だとおっしゃればいいのに。お父さんだって誰だって、構うもんですか。」
「だって、僕……」
「だってじゃありませんよ。次郎ちゃんは、いつもびくびくしてるから駄目ですわ。」
「だって、恭ちゃんが返事しないんだもの。」
「恭ちゃんにも行けっておっしゃったの?」
「うん、はじめは恭ちゃんに行けって言ったの。でも恭ちゃんが默ってるから、僕来ちゃったんだい。」
「恭ちゃんがいやなら、次郎ちゃんはなおいやでしょう。小っちゃいんですもの。」
「だって僕、父ちゃんが好きだい。」
「そう? お父さんお好き?」
「大好きだい。うちで一等好きだい。」
「そんなにお父さんは次郎ちゃんを可愛いがって?」
「ああ、ちっとも叱らないよ。」
「そりゃいいわね。……でも、昨日は一人で怖かったでしょう。」
 次郎は急に肩を聳《そびや》かして、
「ううん、ちっとも怖くなんかないよ。
前へ 次へ
全332ページ中84ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング