た。お浜であった。
「まあ、坊ちゃん、しばらく。」
次郎はちょっとの間、ぽかんとしてお浜の顔を見ていたが、きまり悪そうに俯向《うつむ》いて、くるりと背を向けた。
「おや、どうなすったの。」
お浜は、次郎の前にまわって、中腰になりながら、彼の顔をのぞきこんだ。
「まあ、泣いてたようなお顔ね。」
そう言って、彼女は次郎を抱きすくめるようにしながら、炉の前の蓆に腰をおろした。従兄弟たちは、しばらく二人の様子を珍しそうに見ていたが、間もなく、ぞろぞろと小屋を出て、何処かへ行ってしまった。
「ねえ、次郎ちゃん、あれからどうしてたの。」
と、彼女の言葉は、二人きりになると、少しぞんざいになった。
「病気しなくって? 何だか少し痩せたようね。私、次郎ちゃんのこと、一日だって忘れたことないのよ。でも、お母さんのお許しがあるまでは、次郎ちゃんところへは伺わない約束なんですの。それでね、いつもこちらにお伺いしては、次郎ちゃんのことをお聞きしていましたのよ。でも、今日はよかったわね、お逢い出来て。……昨日いらしたってね。」
次郎は俯向《うつむ》いたまま、かすかにうなずいた。
「でも、お一人でいらし
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