は前より一層高くなった。お祖母さんは包みを解きながら、
「ほんとに、どうしたというんだろうね。……おや、手紙がはいってるね。まあ、お前を一人でお使いによこしたのかい。かわいそうに。」
 そこで次郎の泣き声は、また一しきり高くなった。
「もう泣くんじゃありません。さあお上り。今日は餅搗だから、面白いことがあるよ。でも一人でよく来られたね。道を間違えはしなかったかい。」
 次郎は泣きじゃくりながら、お祖母さんに手を引かれて、やっと板の間に上った。
 お祖母さんは、それから、大急ぎで、次郎のため黄粉餅《きなこもち》を作った。そして、いつになく不機嫌な顔をして、土間の男衆に言った。
「誰かすぐに本田の家に行って、次郎は無事に着いたから安心なさいって、そう言って来ておくれ。今夜はこちらに泊めて置くからってね。……ほんとにこんな子供を一人でよこして置いて、着いたか着かないかも気にかけないなんて、まるで親とは思えやしない。」
 次郎は、ひどく父が非難されているように思って、少し気がかりだった。しかし、餅搗の賑やかさが、間もなく彼にすべてを忘れさせた。そして、従兄弟たちと一緒に、夢中になって小餅を丸め
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