を引きながら、門口まで出て、何かと注意した。しかし次郎はそれにはろくに返事もしなかった。
正木の家までは、ざっと小一里もあった。
次郎が家を出たのは、二時をちょっと過ぎたばかりだったが、冬空が曇っていたせいか、すぐにも日が暮れそうで、いやに淋しかった。刈田には、まだところどころに案山子《かかし》が残っていた。その徳利で作ったのっぺらぼうの白い頭が、風にゆらめいているのも、あまりいい気持ではなかった。狐が出ると聞かされていた団栗《どんぐり》林から、だしぬけに黒犬が飛び出した時には、思わず足がすくんでしまった。
途中に部落が二つあったが、見知らぬ子供たちが、遊びをやめて、じろじろと自分を見るので、次郎はいじめられるのではないかと、びくびくした。彼にとっては、たしかに雑嚢事件以来の緊張した時間だった。やっと正木の家のすぐ手前の曲り角まで来ると、彼はほっとして、思い出したように袖口で鼻汁をこすった。そして、彼の足どりが急にゆったりとなった。
次郎は、正木の家が何とはなしに好きである。今日、たった一人でやって来る気になったのも、一つはそのためだった。
正木のお祖父さんは、維新までは、さ
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