あ、橋んとこまでなら知ってるんだけれど。」
「橋んとこまで知っているなら、あれからすぐじゃあないか。」
「すぐかなあ。」と、まだ不安らしい。
「橋を渡ったら、土堤を右に行くんだ。それから一軒家のてまえで土堤を下ると、あとは真直《まっすぐ》だ。」
「ああ、わかった。僕行こうか知らん。」
「行くか。偉い偉い。もし泊りたけりゃ泊って来てもかまわんぞ。」
次郎は立ち上って帯をしめ直すと、もう出て行きそうにした。俊亮はその様子を面白そうに眺め入って肝腎《かんじん》の用事をいいつけるのをうっかりしていた。
「次郎、お前、ほんとに大丈夫かい。」とさすがにお民も気づかわしそうだった。
「僕、平気だい。」と次郎は、すっかり得意になって、室を出かかった。
「まあ、次郎、お父さんの御用事も聞かないで行くのかい。……貴方、どうなすったの、御用事は。」
「おっと、そうだ。次郎、ちょっと待て、これを持って行くんだ。手紙が這入っているから、なんにも言わんでいい。風呂敷ごと誰かに渡すんだ。いいか。」
次郎は包みを渡されると、それを振廻すようにしてさっさと土間に下りた。お民は、やはり気がかりだったと見えて、恭一の手
前へ
次へ
全332ページ中77ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング