は妙なところに性急《せっかち》ね、ふだんは、のんきな癖に。」
「お前はそのあべこべかな。」
「まあ! すぐそれですもの。」
「とにかく、誰か使いに行って貰いたいと思うね。」
「誰もいませんのよ、今日は。」
 お民は突っけんどんにそう言って部屋を出ようとした。俊亮は、しかし、相変らず悠然と構えて、
「恭一では駄目だろうか。もうこの位の使いは、やらしてみるのもいいんだが。」
「でも、あれは気が弱くて、まだ正木へ一人でなんか行ったことありませんわ。それに、どうせお祖母さんのお許しが出ませんよ。」
「困るなあ、いつまでもそんなに甘やかしていたんじゃ。……いっそ次郎なら行けるかも知れんね。」
「まさか、なんぼあの子が意地っ張りでも。」
「いいや、あいつなら行けるかも知れんぞ。……そうだ、あれをやろう。しかし、道を知るまいな。」
「道なら、この夏からもう五六度もつれて行きましたから、大ていは解っていると思いますわ。……でも、あんまりじゃありません。恭一と二人でなら、とにかくですけれど。」
「そうだな、二人づれだとお祖母さんにも不服はないだろう。」
「さあ、それはお訊ねしてみませんと……」
「ともか
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