まり心よくは思わなかった。しかしこれ以上ぐすってみる勇気も持合わせなかったので、引っぱられるままに縁側から上って来た。
 お民はじろりと彼の顔を見ただけで、何とも言わなかった。次郎は自分の坐る場所がわからなくて、右の人差指を口に突っこみながら、しばらく柱のかげに立っていた。
「次郎、ここに坐れ。」
 俊亮は自分のお膳の前を指《さ》した。その声の調子は乱暴だった。しかし次郎の耳には、少しも不愉快には響かなかった。彼はお民の眼をさけるように、遠まわりをして、指された場所に坐った。
 俊亮は、盃《さかずき》をあげながら、三人の子を一通り見較べた。どう見ても次郎の顔の造作が一番下等である。眼付や口元が、どこか猿に似ている。おまけに色が真っ黒で、頬ぺたには、斜に鼻汁の乾いたあとさえ見える。彼は一寸変な気がした。しかし、そのために次郎をいやがる気持には少しもなれなかった。むしろ、かわいそうだという気が、しみじみと彼の胸を流れた。彼はにこにこしながら、元気よく言った。
「大きくなったなあ。体格はお前が一等だぞ。あすはお父さんが休みだから、大川につれて行ってやろう。泳げるかい。」
 次郎は、しかし、返
前へ 次へ
全332ページ中51ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング