いと言うんだよ。」
「でも……そりゃ浅ましい真似をするんですよ。人が見ていない時に、お飯櫃に手を突っこんで、ご飯を食べたりして。」
「何もかも、もうしばらく眼をつぶるんだね。それよりか、差別待遇をしないように気をつけることだ」
「そんな御心配はいりませんわ。」
「形の上だけでは、どうなり公平にやっていても、何しろこんな事は気持が大切だからね。」
「気持って言いますと?」
「つまり親としての自然の愛情さ。」
「まあ貴方はそんなことを心配していらっしゃるの。次郎だって自分の腹を痛めた子じゃありませんか。」
「自分の子でも、乳を与えない子は親しみがうすいって言うじゃないか。」
「私には、そんなことありませんわ。そりゃ教育のない人のことでしょう。」
「そうか。……ところでお祖母さんはどうだね、あれに対して。」
「そりゃ、あの子を家に呼ぶのでさえ、こころよく思っていらっしゃらなかった位ですから……」
「女は何と言っても感情的だからね。」
「すると、私もお祖母さんと同じだとおっしゃるの。」
「お祖母さんとはいくらか違うだろうが……」
「いくらかですって?……貴方は私をそんなに不信用なすっていらっし
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